気になっていた「藤の根」を掘り出した。思ったより根が柔らかく、あまり時間を掛けずに終えることができた。
何年か前に、蛇の目傘を広げたような大きな“花笠”をもつ躑躅の根を掘り起こしたことがある。古木のせいか開花のエネルギーに乏しく、細かな剪定を施してはなんとか持ち堪えていたのだが、とうとう2,3輪の花しかつけなくなってしまったのである。アジサイなども日照権を言い出すのではないかと思うほど広い葉影をつくるので、根堀を決行した。小石なども巻き込みながら堅牢なドーム状を成す大きな根の塊は、何日かを掛けて掘り起したものであった。
一番大変であったのは梅漬け用の梅を取る白梅であった。小ぶりな白い可愛らしい花をつけるこの梅の木は、あまり実を稔らせることもなく、やがて花を付けなくなってしまった。虫が入ったらしいのだ。太くて硬い根を掘り起こすのに苦労したせいか、直ぐにゴミに出すのも憚られ、1年近く天日に晒しておいた。鋸で根に近い幹の部分を綺麗に切り取り、花台にしてみたが、子供たちが「綺麗!欲しい!」などと言っては持ち帰っていった。
梅の開花は魁の一輪から始まる。
出る釘は打たれるなどという俚諺がまだまだ健在な人間世界とは異なり、早春の花の世界は常に単純明快で、梅にせよ桜にせよ、最初の一輪が衆目を集め称賛される。
その色香は人々に厳冬の終わりが近いことを告げてくれるのだが、毎年決まった枝の決まった場所の辺りに咲くこの魁の一輪を見ていると「律儀な摂理」に導かれている不思議な自然を感じとることができる。
江戸期の俳諧師.服部嵐雪は、この魁の一輪を「梅一輪一輪ほどの暖かさ」と詠んだが、旅の途中で足湯に浸かっている時のような、癒された気持ちよさを感じる俳句である。