GWに飲んだワインの想い出に一寸良い気分になっていたある日の朝のベッド、徐々に夢路の眠気から覚めようとして寝返りをうつと、脇の下辺りが痒い。そーっと触ってみると、何かボツボツが出来ている。
帯状疱疹に長いこと苦しめられている身近な方を知っているので「すわ!一大事!!」とばかりに飛び起き、パジャマを脱いで洗面所の鏡に映して見ると、右腕や右の脇の下一面に赤いブツブツが出来ている。同じようなブツブツが左側にも出かかっている。が、赤い斑点は線状ではなく一面に広がっていて「これは帯状疱疹ではないな」とほっとしたのだが・・・
しかし、体中が痒くて痒くて堪らない。搔いてはならぬと我慢をしながら、妻に、「何か、痒み止めの薬がなかったかな?」と訴えると「ちょっと待ってね」と薬箱をごそごそと探し始めた。
「これを塗ってみようか?」と差し出されたのは細長い容器に入ったジェル状の薬「随分前にね、先生から、何処か他に変わった事がないか?と聞かれたので、時々足とか背中が痒いことがあります、と言ったら、会計の時に、ちゃんと薬袋に入っていたのよ」と言いながら、患部にべたべたと塗り始めたのである。因みにこの内科の先生を我が家では、親しみを込めて、『薬屋さん』と呼んでいる。
幾分痒みは和らいだのだが、「皮膚科にいってくるから」といって近くの医院に出掛けた。
先生は以前のカルテを見ながら「草取か何かやりましたか?これは以前と同じチャドクガですね」とステロイド系の塗り薬を処方してくれたのである。
この歳になると、一度に庭の草取りを済ますことは無理な話『元藤棚の下、梅の樹の下、夏蜜柑のまわり、ヒマラヤスギとアジサイのまわり・・・』などと、庭をいくつかの区画に分け、雨上がりで土が柔らかくなる日を待ちながら、順番に、長袖・軍手姿で、雑草との格闘を始めるのである。
除草は、膝と腰を折り曲げ枝葉の下に潜り込むようにして行うのだが、その際にツバキやサザンカなどの若葉を食べていた幼虫(ケムシ)にやられたようなのだ。
皮膚科の窓口で渡された『マンガでわかる 虫刺されのお・は・な・し』というマンガ本を見ると、ツバキやサザンカの葉に集まるのはチャドクガ、松にはカレハガ(マツケムシ)梅やカエデにつくのはイガラだそうだ。
我が家の庭には彼らが好む木々が全て揃っているから“膝と腰を折り曲げ枝葉の下に潜り込む”邪魔者に一撃を加えるのは朝飯前のこと、この季節、防ぎようがないのかもしれない。
淡黄褐色で毒針毛に覆われるチャドクガは成長すると25mm程になると言われるが、幼虫の時は、1ヶ所に数十匹が頭を揃えて並んで葉を食べるという。彼らの毒針毛は非常に細かく、長袖でも繊維の隙間から入り込み、一旦皮膚に付着すると、小さなトゲで覆われている毒針毛はなかなか抜けにくい構造になっているというから、全くもって恐ろしいものである。
妻が処方された塗り薬を指先に載せ、赤いブツブツ一点一点に「チョン、チョン、チョン、チョン、チョン、チョン」と、根気よく塗ってくれたおかげで痒みがとれ赤い斑点も消え失せ、元の『色白の美肌???』に戻ったのである。