去年の丁度いまごろ、札幌の友から「この頃、だんだんスマートになってきてさ、ガブガブになって着られなくなったものが沢山あるのさ。お前が着ると丁度良いものが揃っているんだけど、送ってもいいかな?」という電話があった。「歯も治したというし、髪の毛も復活してきたそうだし、スマートになって若返ったね!沢山送ってくれよ!」などとやり取りしていたのだが、間もなく大きなダンボール箱一杯のセーター類が送られてきた。彼はなかなかのゴルフ上手であったからスポーツウェアーが多かったが、仕立ての良い上質な街着も何着か入っていたのであった。
彼が帰らぬ人となったのは、まだ肌寒さが残る3月9日のことであった。あっという間の出来事であった。
二月目の命日の日に電話をしてみた。
「役所や銀行や商売関係の手続きなどが大変で、メソメソしている暇がないんだから!」という元気そうな声の奥さんにほっとした。「こちらから電話しようと思っていたの。実はね、お父さんが着ていた夏物ね、石井さんに着てもらうのが一番喜んでくれると子供たちも言うので、勝手に送らせてもらったの!」という。「ああ、ありがとう。大事に使わせてもらうからね」ということになったが、翌日、大きなダンボール箱が届いた。
半袖や長袖など20枚ほどの夏物が入っていた。
彼が一番気に入って何回も何回も着たものではないかと思われる長袖を、その日一日着ていた。
粉骨砕身の末にようやく家族を養えるほどの商売に出会い、努力と人柄が幸運を呼び込み、立派な家屋敷を持った彼であったが、正直、こんなにも着道楽であったということはあまり知らなかった。
ちょっとどこかに出掛ける時とか、ゴルフコンペの時など、その都度デパートなどで新調をしていたらしい。ブランド品でデザインも良いものばかり。着心地は満点だ。
友の形見分けのお陰ですっかり衣装もちとなったが、「お前、なかなか良く似合うぞ!」という彼の笑顔溢れる声が、身近で聞こえたような気がした。