ご近所の家に用事ができて伺ったのだが、ご主人がご自慢のコーヒーを出してくれた。これがなんとも物凄い凝りようの煎れ方で度肝を抜かれた。
お気に入りのコーヒー屋さんから分けてもらっているというコーヒー豆をきちんと秤にかけ、コーヒーミルで挽き、煎れてくれる。ここまでは特別珍しいことではないのかも知れないが、一日がかりで富山まで出かけ、ポリタンクに汲んできた湧水を使うということは、滅多に真似のできることではない。自然水の話も加わって、十年以上のキャリアがあるというご主人が煎れてくれたコーヒーは、確かに美味いものであった。
大した用事でもなかったが、メモ帳と筆記用具を持って出かけた。いつもポシェットの中にはボールペンとシャープペンが入っているのだが、この日は珍しくシャープペンを持ってでかけたのであった。
帰ってきてから妻に「このシャープペンは子供たちが贈ってくれたものだと思うけど、何の時だったかな?」という話になった。
朝出かけるときから帰宅するまで、いつもYシャツの胸ポケットに差していたシャープペンなのだが“いつ誰にどこで”という記憶が蘇ってこない。Yシャツもお気に入りの何枚かを代わる代わる着ていたせいで、シャープペンの先で胸ポケットに小さな穴が開いていたことなどは鮮明に覚えているのだが...。
キャップにY.Iというイニシアルが刻印されていることから判断すると、子供たちが贈ってくれたのは(そうだとすれば)クリスマスとか誕生日ではなく、他の何かの記念に贈ってくれたのではないかと思う。
初めて管理職になったときのお祝いかもしれない。「お父さんはレッドワインカラーのシャープペンがいいよ!」などと言いながら、このシャープペンを選んでくれたのではないかと想像する。
車で出かけるときなどは、キーや免許証や財布や筆記用具など七つ道具の入ったポシェットを無造作に持ち出すのだが、この仲間にシャープペンも入っていたなどということは、すっかりと忘れていたことであった。
シャープペンには大変申し訳ないことをしていたと反省している。