秋の芸術祭参加作品?は、一日二時間ほどかけ、三日目にして完成した。切れ味抜群の小刀をフル活用、作品は、まずまずの出来栄えである。
以前から我が家には夥しい種類のぬいぐるみが住みついているのだが、彼らは時折、飼い主によって居場所を変えて貰ったり組み合わせを変えて貰ったりして、それなりに幸せな暮らしを営んでいる。
しかし、ご縁があって我が家に来て以来、この十数年の間、一度も居場所を変えて貰えない「ぬいぐるみ」がいる。二階へ上がる手すりに住み付いた階段の主「テナガザル」である。普段は、階段の踏板や手摺の起点となる「親柱」に長い手足を巻き付け、階段を上ろうとする者を「じーっ」と見つめている。
東南アジアの鬱蒼とした熱帯雨林の樹冠に生息している類人猿テナガザルは、朗々たる澄み切った音声(ソングと称される=京都大学霊長類研究所)で行うコミュニケーションが得意技なのだが、階段の主「テナガザル」の持つ意思表示の技は「反省ポーズ」だけである。
階段を上ろうとする者を「じーっ」と見つめている場合もあるのだが、ほとんどの場合、首を「がくっ」と折下げ「反省!」をやっている。時々本来の姿勢に戻してやるのだが、直に「反省!」の姿勢に戻ってしまうのだ。
少し前から「そんなに反省ばかりしなくてもいいから!」といいながら、土鈴(干支のきららすず)を乗せる紫色の小さな座布団を階段の角に敷き、その上に彼を座らせることにしてみた。「これでもう、反省しなくて済むからね!」と一応安堵した、のだが...彼の頭が蹴上(ケアゲ=踏み段の高さ)に隠れてしまい「なんだか、窮屈そうだなー」と思っていた。
そのことが少し気にかかっていたのであろう、複雑な造形をしているアオジクの根を見て、「そうだ!長い手足を絡ませるのにちょうど良いか!」とひらめき「面白いものが出来そうだ!」と、切出小刀を買ってきたのである。
ノミなどの大工道具が揃っていれば、もっと色々と細工ができるのだが、当てになるのはこの「切出小刀」だけ。作品を載せている台は、一昨年の秋、庭一番の大樹「椎の木」の枝打ちをした梢に近い幹の部分だ。
「一体、何ができるんだろうね?」とメールのやりとりをしている妻と娘であったが、出来上がった芸術作品?を見たぬいぐるみの飼い主は「よくできたわね」と、一応は褒めてはくれたものの「これ、ヤマネに最高!」とか言って、写真の如き仕儀となった次第。
さて、我が家の「反省テナガザル」、ヤマネと同等な棲家が欲しかろうと思うと、もう一度「切出小刀」の出番をつくらねばならないかな?と、目下、思案中である。