お盆過ぎから始まった家の前の新築工事、3ヶ月を経て内部の造作も終わり最終仕上げの段階に入った。
当初から「この家も壁の色は黒系らしいよ」という噂が近所に広がっていたが、外壁の塗装が終わって足場の覆いが外されると、そこには、黒に限りなく近い濃いグレーの家が現れた。「黒い色の家なんて嫌ね」と話していたのだが、その嫌な黒系の家がこれからずーっと目の前にあるのだと思うと、あまり良い気がしない。
どういうわけか、その隣の家も真っ黒い家なのだが、黒から黒へと二軒も続く様は「異様なる空間」と言わざるを得ない。
粋な黒塀越しに風情ある松の木(見越しの松)が見える玄冶店(げんやだな)、そこに、腰の辺りまであろうかと思われる洗い髪を櫛で梳いている仇な姿のお富さんがいる、などという春日八郎の唄ならば「さもありなん」と合点がいくのだが、ホラー映画の題名にも似た黒い家には困ったものだ。
烏城と言われる岡山城も黒一色にあらず、白漆喰で塗られた梁が全体の黒をひと際鮮やかに浮き立たせ、白鷺城と称えられる姫路城も白一色にあらず、屋根瓦や梁の黒とが程よく融合し格調高い美しい名城として人気を博している。
しかし、よく観察してみると、おかしな現象だとは思うのだが、若い世代が建てるこの地域の新築の家には“黒系”が結構多い。何か特別な理由でもあるのだろうか。
それに、道行く車にも黒塗りが多い。
黒塗りの車と言えば、一昔前までは、大手銀行や大手商社のお偉いさまが乗る運転手付きのセダンと相場が決まっていたものだが、今は、あらゆる車種に黒塗りが蔓延している。
ミニバンなどにも多く見かけるのだが、今の世の中に漂う残虐性や際限ない閉塞感などが、日常の色使いにも深い影響を与えているのかもしれない。