買い物は一週間分をまとめ買いするのだが、買い物籠の中で一番嵩張って重いものは牛乳である。昨日も妻と出かけ籠に入れた牛乳パックは5本、とても老夫婦の買い物とは思えない量なのだが、毎朝妻が飲むのとヨーグルトに使う分を合わせると、1週間に4本から5本が必要になるのである。
自家製のカスピ海ヨーグルトを作り始めて20年近くになる。
最初は、種菌(フジッコから購入)を牛乳で溶き一昼夜置く。ヨーグルト菌の作用で“ヨーグルトの元”が出来る。その“元”を熱湯滅菌した器に移し牛乳で満たして一昼夜置くとトロトロしたカスピ海ヨーグルトが出来上がる。次回からは、大匙三杯のヨーグルトを熱湯滅菌した器に入れ牛乳で満たして一昼夜置くとトロトロしたカスピ海ヨーグルトが出来上がる。このやり方を2ヶ月ほど繰り返しているとトロトロ感がサラサラ感に変わってくるので、新しい種菌に変える。
ミュージカル・屋根の上のバイオリン弾きの挿入歌♪やがて朝がくれば花もすぐ開く 陽は昇りまた沈み・・・♪のSUNRISE SUNSETのように、単調な繰り返しを20年間も続けてきたのである。
ところが、ヒグマの越冬を思わせる“穴ぐら生活”を余儀なくされた40日近くの間、市販のカスピ海ヨーグルトで代替せざるを得なくなったのである。ブルガリア・ヨーグルトなどの価格に比べてかなり割高であったが「作りたてヨーグルトのトロトロ感があって美味しいね」とすこぶる好評、何日か経つと、どちらからともなく「これに牛乳を入れたら、ダメかな?」と発想の転換「キッチンが使えるようになったら、やってみるか!」となった。
コチコチに硬くなっている老夫婦の頭が少し柔らかくなったようである。
日常が戻った朝、大匙三杯の市販カスピ海ヨーグルトを熱湯滅菌した容器に移し牛乳で満たした。果たして、この20年間律儀にお付き合いをしてきた“種菌”との別離の日が来るのか否か、明朝の出来具合を待つことになったのである。
試作のヨーグルトは、しばらくの間お世話になった市販のカスピ海ヨーグルトに匹敵する満点の出来具合、お醤油を数滴入れた“すりおろした長芋”を食した時、口いっぱいに広がる“柔らかな膨張感とトロトロ感”に満足したのである。冷蔵庫で保管中の種菌をどうするかという問題は残るのだが、“市販”に切り替えれば、種菌の購入金額が不要となり“ヨーグルトの元”を作る手間と時間が省けることは確かな事である。
種菌から市販のカスピ海ヨーグルトへ、このきっかけを与えてくれたのは窮屈極まりない“穴ぐら生活”であったが、変化に乏しい老夫婦の暮らしに中にも“面白いこと”が、偶には起こるものなのである。