奈良・御所市の“風の森・初しぼり生酒“を飲んだ後の印象については1月20日のブログで述べたが、ここでまた、義弟の長男が”風の森 雄町 純米しぼり華“という精米歩合80%・超低温長期発酵酒を届けてくれた。
昨年12月8日に放映されたカンブリア宮殿は、究極の職人技と最先端の機械化を見事に融合させ、買い易い価格で良い酒を世に送り出す八海山の秘密についての報道であったが、この番組で精米歩合60%の八海山に対比されたのは、酒米を極限(精米歩合23%)まで磨き米の雑味を取り除き上質な香りを出すことにこだわる山口県の『獺祭』と,その対極にあると思われるのだが、精米歩合80%で甘みある濃厚な味を実現した栃木県・小山市の『若駒』であった。
彼とこの録画を見ているとき、自分が「80%の清酒は魅力的だね」と呟いていたようで、そのことを聴き止めていた彼が「手に入りました」といって届けてくれたのが”精米歩合80%の純米しぼり華“であった。
今回もまた東海営業所に出張中の息子と飲み合わせることになったのだが、「発酵由来の炭酸ガスが含まれている」というラベル表示の通り、栓を抜くと「プシュッ」という小気味よい音がして、ブランディーグラスに注ぎ始めると、グラスの内壁いっぱいに無数の小さな泡が付着して、おとぎの国に足を踏み入れたような、華麗なる“しぼり華”であった。
やや甘口に感じたが、炭酸ガスの清涼感が加わった為なのか、勝手に想像していた「精米歩合80%由来の雑味」というような特別な感想は持ち得なかった。
“華麗なるしぼり華”を飲みながら、不謹慎にも『猿酒』という言葉を思い出していた。
ワイン実習1年生の頃、マンズワイン勝沼ワイナリーの工場長からワインの歴史について講義を受けていた時「お猿さんが食べ残した山葡萄が木の枝に放置され自然に醗酵しアルコールを含む液体となった。ワイン業界ではこれを「猿酒」と称するのだが、ことほどさように、ワインの造り方は極めてシンプル、唾液や空気中の酵母菌が葡萄に混入すると果汁に含まれるブドウ糖や果糖をアルコールと炭酸ガスに分解する醗酵が始まるのである」という語り口がとても面白く、今でも、その時の様子が眼に浮かぶ。
『猿酒』の話を思い出しながら「ワインはお猿さんでも作れるが清酒は無理な話だなー」と、『猿酒』という単純性が基本のワインに比べ、日本酒造りは複雑怪奇、繊細な感性から育まれた技術によって成り立っている日本酒に思いを馳せたのである。
因みに、カンブリア宮殿で取り上げられた栃木県・小山市の若駒酒造のHPで「若駒」の由来を見ると「奈良の銘酒 風の森 で知られる油長酒造にて三年間修行の後、 蔵に帰ってきた六代目・柏瀬幸裕が修行の経験を活かし丁寧に仕込んだのが、精米歩合80%で甘みある濃厚な味を実現した“若駒”です」とあった。
奈良から小山へ『精米歩合80%・超低温長期発酵酒』が伝播されたというから、面白い話である。