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ビジネスサポート・ コミュニケーションブリッジ 代表 石井 吉治 yosiharu(あっと)mis.ne.jp >> WEBサイト ★☆ブログ更新予定☆★ 業務日誌 :月~金曜日 (祝日を除く) 企画の勘所 :日曜日 最新のトラックバック
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2018年 09月 18日
2017年ノーベル文学賞受賞作品カズオ・イシグロ著「日の名残り」は、「執事の本領は品格ある紳士たるべきこと」を命として、伯爵ダーリントン卿にお仕えしていたスティーブンスが、ダーリントンホールを取り仕切っていた栄光の日々の様々な出来事を、たまたま、ファラディ氏(ダーリントンホールの現主人/アメリカ人の富豪)のご厚意で出かける事になった6日間の旅先で、女中頭ミス・ケントン(後のベン夫人)に淡い恋心を抱きながらも彼の許を去って行かざるを得ない状況にしてしまったという己の鈍感さや、心服するダーリントン卿が、事もあろうに、対独協力者であったという彼の知られざる一面を見抜けず「主人を守り切る」という執事の基本的な職務を遂行できなかった己の至らなさなど、数々の懐かしい想い出と共に、己の執事人生を、旅先での朝な夕なに、回顧する物語である。
全身全霊で執事の職務に打ち込んできたスティーブンスにとって、遥か彼方に過ぎ去ってしまった「あの時代」とは言え、名残惜しさから抜け切ることはそう簡単ではない。 原題「The Remains of the Day」を直訳すれば「日の残り」とかいう味も素っ気も無いわけのわからぬ題名になってしまうところであるが、スティーブンスの心情を余すところなく包含した題名を「日の名残り」とした訳者・土屋政雄氏(英米文学翻訳家)は「凄い人なんだなー」と思うばかりである。 それにしても、執事とは「礼儀正しく物腰が柔らかい人」くらいにしか理解できていない自分は「執事の本領」に命をかけてきたスティーブンスの職業意識などは、本書を読むまでは、まるで知り得ない異質の世界であった。 改めてイギリスの家事使用人の実情を知ると、我々の日常では理解を超える職業で、驚かせられることばかりである。 その昔「使用人」は農村出身の少年たちの憧れの的として脚光を浴びていたそうだ。 12歳ごろになると、少年たちは親戚や知人のツテで近くの中流階級のお屋敷で下男として雑用をこなしながら仕事に励み、使用人としての仕事を覚えていく。キャリアを積んだ少年たちは更に大きなお屋敷へ転職する。そのお屋敷で経験を積んだ彼らは「従僕=フットマン」として別のお屋敷へ転職する。 従僕は仕事の手際良さよりも外見が重視されていたため、採用条件は背丈が170センチ以上あることが必要で、従僕として仕事に磨きをかけながら、執事として雇い入れてくれる大きなお屋敷を探す。彼らは上が辞職や転職しない限りポストに空きがなく、同じ屋敷で奉公していても出世が見込めない。幸運に恵まれて大きなお屋敷に入ることが出来れば、晴れて念願の「執事=バトラー」という身分になる。 執事の業務は酒類・食器の管理及び主人への給仕という本来の職務に加え、メイド(ハウス・メイドやナース・メイド)は女中頭が統括していたのだが、料理人やフットマンを含む使用人全体を統括し、その雇用と解雇に関する責任と権限を持ち、主人の身の回りの世話及び私的な秘書として公私に渡り主人を補佐する。生粋のキングズ(クイーンズ)・イングリッシュを話さねばならないのだそうだ。 食器は東洋から渡来した非常に高価な磁器や銀器が使われ、来客に所有者の財力を誇示する富と権力の象徴であったが、すぐ黒ずむ銀器は常に磨き上げられていなければならなかった。そのため、執事の部屋は食器室と直接通じていたが、ビールやワイン関する技術と知識が必要とされ、食器室に並びワイン貯蔵庫もバトラーの管理下にあった。 執事としての大きな悩みに結婚という問題があった。何故ならば、お呼びがかかると、いつでも主人の許へ駆けつけられるように邸に住み込んで待機する必要があったのだ。世帯を持つと通い執事となり、独身を貫かざるを得なかったという。 家事使用人を雇用するという慣行は下火となり、フットマンから叩き上げてバトラーになる事は無くなったそうだが、ロンドンにはバトラー(秘書・運転手・側近の三者を兼ねた存在)となる為の専門教育・養成学校があり、昔からの伝統が息づいているそうだ。 リトル・コンプトンのローズガーデン・ホテルでミス・ケントン(ミセス・ベン)に再会し、そぼ降る雨のバス停留所で、「ミスター・スティーブンス、こんな所まで送って頂いて、ありがとうございました。今日は、お会いできて本当に嬉しゅうございました」「私の方こそ、とても楽しいひとときをありがとう、ミセス・ベン」という挨拶を交わしながらミス・ケントンと別れてから丸二日を過ごしたスティーブンスは、海に沈んでいく夕日を眺めようとウェイマスの桟橋に置かれた長椅子に腰を下ろしていた。 ウェイマスの町は「旅行者を何日間でも飽きさせない町」として観光客を惹き付け「イギリスの驚異」と言われるくらいの名勝地だそうだが、イギリス海峡に大きな夕日が沈みはじめると桟橋全体に色付き電球が点燈し、詰めかけた群衆がその瞬間、大きな歓声をあげる。 荘厳な入り日に感じ入りながら、スティーブンスは、「明日ダーリントンホールに帰りつきましたら、ジョークの練習に取り組んでみる事にいたし、ファラディ様を、私は立派なジョークでびっくりさせて差し上げましょう」と決意を新たにするのであった。 音読するのに一月くらいはかかったのかも知れないが、2017年ノーベル文学賞受賞作品「日の名残り」を妻と共有できたことは、何よりのことであった。
by c-bridge
| 2018-09-18 17:49
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