3月の終りころであったが、いつもより冷蔵庫のモーター音がうるさいように感じてはいたが、ある日の朝、妻が「ちょっと来てみて、冷凍庫が開かないよ!」と言う。「そんな馬鹿な」と思いつつ冷凍庫に手を掛けて開けようとするのだが、妻の言う通り、開かない。
少し強めに開けようとすると「ガリガリガリ」という氷の砕ける音がして何センチか開きかけた。隙間から覗いてみると、冷凍庫の脇やレールにびっしりと氷が張りつめているではないか。
冷蔵庫最下段の冷凍庫と二段目の小さな冷凍ボックスを取り外し、付着している氷を搔き出し何とか応急措置を終えた。
去年は買い替えするものが多い年であったが、妻と「今度買い替えするのは、きっと、洗濯機かウォシュレットだね」と言っていたのだが、5年前に買い替えたばかりの冷蔵庫の冷凍庫に氷が付着するなどということは想定外の事、購入先のエディオンに電話した。
保証期間がまだ十分に残っていることもあって、翌々日に東芝の岡崎サービスステーションから技術者が来てくれた。
冷蔵庫を一見した彼は「何等かの理由で付着し始めた氷が冷凍庫を外に押し出し、その隙間から入って来る空気が冷やされて更に氷が成長し、冷凍庫全体が氷で覆われた」と言いながら作業に取り掛かった。
付着している氷を瞬時に溶かす器機を使って庫内を正常な状態にしてから、冷凍庫一番奥の壁部分を外して冷却器を取り外し新品と取り換え「これでもう、心配いりません。普段通り使えます」といって帰って行った。
松戸駅近くの社宅に住んでいた頃は、近くに色々な商店がありイトーヨーカドーなどもあったので、妻は徒歩で、その日の買い物に出かけるのであったが、鹿島の家は、一週間分をまとめ買いし、魚肉類などは冷凍庫に保存しなければならない。氷が付着してガリガリガリ」という無粋な音がする冷凍庫では「まかたしない(北海道方言)」のである。
桜色の綿帽子をすっぽりと冠った満開の桜には身も心も吸い込まれそうな怪しさが漂うが、開花時の魁の花なのであろうか、昨日辺りからほろほろと散り始め、一枚二枚と我が家の庭にも舞い降り始めた。庭一面が桜色に染まるのも、そう遠くではない。
一週間ほど前、スミレ・タンポポ・レンゲソウの散歩道で「貝母(ばいも)ユリ」を見つけ、神棚に供えた。
茎や葉は百合の花のそれと見まごうような姿で鮮やかな緑色を呈しているのだが、伏し目がちに咲く薄黄色の花は、早春のこの一瞬を「良し」として、静かに佇んでいた。
去年の今頃にも同じ散歩道で見つけ手折ってきたのだが、茶の先生(妻の幼友達)に教えてもらったこの季節の茶花である。
そういう事でもなければ、例え、散歩道に咲いていたとしても、自己主張する気など毛頭ない貝母ユリには気づく事はないのではないか、と、思う。
貝母ユリは「無欲」を絵に描いたような、早春の草花なのである。