聖母マリアを意味するノートルダム大聖堂が、4月14日夕刻、眼をそむけたくなるような火の粉に包まれ、大聖堂の屋根と尖塔が崩落した。
パリ・シテ島に850年間も建ち続け、巡礼者は元より、パリを訪れた人ならば必ず立ち寄る観光名所中の名所、その大聖堂の尖塔が焼け落ちる瞬間の映像は見るに忍びなく、言葉を失うばかりであった。
初めてパリを訪れたのは1975年(昭和50年)春4月のことであったが、改めて当時の旅日記を開いて見ると、ノートルダム大聖堂について次のように書かれている。
「ミサが行われている聖堂内は荘厳そのもの、バラ窓や二階の巨大なステンドグラスは圧巻で感動的であったが、複数の告解室(懺悔室)では神父と罪状を告白する信徒の姿があり、大聖堂が日常の暮らしに溶け込んでいる様子が一番印象深かった」
二度目に訪れた時にも、同じような情景を眼にしたのであった。
バスで移動しながらの「観光名所見物」であったので、屋上に登ったりする時間はなかったが、神々の像や竜や悪魔などの数えきれない大彫刻の外壁は、観ていて飽きる事が無い。
際立っているのは、どれほどの本数があるのか、急傾斜の屋根を勢いよく流れ落ちる雨水を見事な彫刻の怪物が受け口から排出する、ガーゴイルと言うのだそうだが、雨樋である。
当時、大聖堂の敷地に通じる細い道路わきに土産物屋さんが立ち並んでいて、シテ島記念に買ってきたのが、写真の彫り物である。我が家にやって来てから44年が経つが、もう一つは、娘の家の壁に取り付けてある。
マクロン・フランス大統領は、5年後までに、元通りの大聖堂を復活させると宣言しているが、世界の英知と技術を結集して、実現して欲しいと、強く思う。
5年前の平成16年5月に、息子と「ボルドー&パリ 7泊9日の旅」に出かけた折に楽しんだ「セーヌ河下り」のビデオに映る神々しいノートルダム大聖堂を改めて観ながら、妻と息子と三人、「850年の時空を経てきたこの大聖堂を、もう、見ることは出来ないんだね」と、ぼそぼそと、語し合ったのであった。