対話総合センターに訓練のため派遣された5人の中に上野さんという人がいて、社内で「すごく頭の切れる人」のうちの一人に数えられていた。
上野さんは当時、企画宣伝部の企画課長であった。
「頭の切れる人」の特徴は色々あるのだが、この人の特徴は、議論が始まると『議論の先』が読めるらしく、相手の論理展開を先廻りして議論を展開するので、聞く側にとっては、話の連続性がなく「上野さんの話は良く分からない」という評判でもっぱらであった。
対話総合センターの訓練派遣の最大の目的は、上野さんに対話の勉強をして貰い、普通の話し方ができるようになって欲しいということで、一人では可哀想なので5人にした、という冗談めいた話を暫らく経ってから聞いたことがある。
対話総合センターは、銀座の一角に威容を誇る『歌舞伎座』楽屋口の前の細い道を進んでいくと、最初の交差点の角に建つ細長いビルの4階にあった。
エレエベーターがなく、狭い階段を上がっていく。
清水先生がにこやかに出迎えてくれる。
先生は慶応大学を卒業後、養命酒酒造に入社し営業畑を歩まれ、縁あって江木武彦先生の門下生となる。
江木武彦先生は1949年に『言論科学研究所』を設立され、1955年、日本初の『話し方教室』を開設された人間関係に関する先駆的な実践指導者である。
さあ、歌舞伎座裏で5人衆の対話訓練が始まった。
先生ご著書の参考書が手渡された。では次週をお楽しみに。